深夜の2時20分のまま、彼は2時20分の瞬間をた
だただ漂い続ける。
月は満月になるのをあと9日分待っているまま、空に浮かんでい
る。
玄関では警備員が居眠りしたまま、誰が来ることもない。
空いてるホテルの部屋が埋まることはない。
もうなにも進まない。地球温暖化を心配する必要もない。
なのに、彼は手紙を書いてばかりいる。
書き終わった手紙を丁寧に机の隅に重ねる。
月に行った宇宙飛行士についての映画を見逃してたことを思い出した。
誰と見ようかと思い巡らした。
手を伸ばして時計のスイッチを入れる。
秒針が微かな音を立てて、前に進み始める。
何も変わらない。隣から寝息が聞こえるだけ。
手を伸ばして時計のスイッチを切る。
2時21分、月明かりは今も彼を照らしている。